エージェント基盤・プロトコル

エージェント間ハンドオフとは|文章で渡したら6項目中2つしか届かなかった

エージェント間ハンドオフで何が起きるのか情報はどう欠けるのかどう渡せば欠けないのか

調査する係が調べて、執筆する係が書く。エージェントを分けると、あいだで作業の引き継ぎが発生します。これをハンドオフと呼びます。

問題は、引き継ぎのときに情報が落ちることです。今回は数えました。調査係が持っていた6項目のうち、自由な文章で渡すと2項目しか届きませんでした

この記事の要点

  • ハンドオフはエージェント間の作業の引き継ぎ
  • 実測では、自由な文章で渡すと6項目中2項目しか届かなかった
  • 項目を決めて渡せば6項目すべてが届く
  • 重要なのは、欠けたことに気づけるかという点

文章で渡したら6項目中2つしか届かなかった

調査係が持っていた6項目を、2通りの方法で渡しました。文章にすると4項目が消えます。

エージェント間ハンドオフで何が落ちるかを確かめるため、実際に数えました。調査係が持っている情報を6項目用意しています。

答えそのもの、例外条件、出典のURL、出典の日付、確からしさ、いつ調べたか。この6つを、自由な文章と項目を決めた形式の2通りで渡します。

javascript
// 自由な文章で渡す
const asText = `調べました。返品期限は購入後30日以内です。未開封に限ります。`;

// 項目を決めた形式で渡す
const asStruct = {
  answer: '返品期限は購入後30日以内',
  caveat: '未開封に限る',
  sourceUrl: 'https://example.com/policy',
  sourceDate: '2026-08-01',
  confidence: 'high',
  searchedAt: '2026-08-17T10:00:00Z',
};
text
調査係から執筆係へ受け渡すとき、受け取り側が使える情報の数

  使える  使える  答えそのもの
  使える  使える  例外条件
  欠ける  使える  出典のURL
  欠ける  使える  出典の日付
  欠ける  使える  確からしさ
  欠ける  使える  いつ調べたか

自由な文章で渡す: 2 / 6 項目
項目を決めて渡す: 6 / 6 項目

落ちました。6項目中2項目です。届いたのは答えと例外条件だけで、出典に関する情報はすべて消えています。

落ちるのは「答え以外」

欠けた4項目には共通点があります。どれも答えそのものではない情報です。出典、日付、確からしさ、調べた時刻。

渡す側は「聞かれたことに答える」ので、これらを書きません。省いたつもりもなく、そもそも書く対象だと認識していないのが実情です。

欠けたことに気づけない

より深刻なのは、受け取った側が欠けたことに気づけない点です。文章として自然なので、読んでも違和感がありません。

項目を決めた形式なら、空の項目として現れます。出典が空なら、裏取りできていないことがその場で分かります

渡し方を変えるだけで、届く情報が3倍になる。仕組みは足していない。

単位: 項目項目を決めて渡す6項目自由な文章で渡す2項目−67%欠けた4項目は出典・日付・確からしさ・調査時刻。いずれも答え以外の情報にあたる。
図1 ── 受け取り側が使える情報の数(全6項目中)
出典Anthropic Engineering「Building effective agents」2026-08-17 確認
the most successful implementations use simple, composable patterns rather than complex frameworks
原文Anthropic Engineering「Building effective agents」 この内容の有効期限2027-02-17

どう渡せば情報が欠けないのか

受け渡す項目を先に決めます。決めた項目が空なら検出できるので、欠けたことに気づける状態になります。

エージェント間ハンドオフの設計は、渡す項目を決めるところから始まります。難しい仕組みは要りません。

項目の決め方

  1. 受け取り側が何に使うかを確認する。使わない項目は渡さない
  2. 答え以外の情報を明示的に入れる。出典・日付・確からしさが落ちやすい
  3. 必須と任意を分ける。必須が空なら処理を止める
  4. 自由記述の欄は最小にする。そこに入れると検出できなくなる

2番目が実務では効きます。前の節で欠けた4項目は、いずれも意識して項目に入れないと落ちるものでした。

空を検出できる形にする

項目を決める価値は、届いた情報が増えることだけではありません。届かなかったときに分かることにあります。

出典の項目が空のまま執筆係に渡ったなら、その時点で止められます。文章で渡していたら、裏取りされていない内容が記事になるまで気づけません

自由記述に入れた情報は検出できない。項目にすれば空を検出できる。

受け取り側がその情報を使うかいいえ渡さない。量が増えるだけはい無いと処理を止めるべき情報かいいえ任意の項目として渡すはい必須の項目にする。空なら止める自由記述の欄に入れると、欠けても検出できない。項目として分けることに意味がある。
図2 ── 受け渡す情報の設計

枠組みは要らない

この設計に専用の道具は必要ありません。決まった形のデータで渡すだけです。Anthropicも、可能な限り単純な解から始めることを推奨しています。

エージェントを分けるかどうかの判断自体はマルチエージェント構成の記事で扱っています。受け渡しが増える代償を含めて検討する必要があります。

渡した内容を記録に残す受け渡しの内容は、後から問題を追うときの手がかりになります。どの担当が何を渡したかを記録しておくと、どの段階で情報が落ちたかを特定できます。記録の設計はエージェント可観測性の記事で扱っています。
出典Anthropic Engineering「Building effective agents」2026-08-17 確認
we recommend finding the simplest solution possible, and only increasing complexity when needed
原文Anthropic Engineering「Building effective agents」 この内容の有効期限2027-02-17

エージェント間ハンドオフで何が起きるのか

作業が次の担当に移ります。このとき前の担当が持っていた文脈は引き継がれず、渡した内容だけが伝わります。

エージェント間ハンドオフは、作業を次の担当に引き継ぐことを指します。調査係が調べた結果を執筆係へ渡す、といった場面です。

分けた数だけ発生する

受け渡しは、エージェントを分けた構成で必ず起きます。Anthropicが示す形でいえば、中心のAIが作業を分解して担当に割り振り、結果をまとめる構成でも、割り振りと回収の両方で受け渡しが発生します。

3体に分ければ受け渡しは2回、4体なら3回です。分ける利点を得るたびに、この回数が増えます

文脈は引き継がれない

重要なのは、次の担当が前の担当の頭の中を見られないことです。どの資料を見て、なぜそれを選んだのか。渡した内容に含まれていなければ、その情報は消えます。

人間の引き継ぎなら、後から聞き直せます。エージェントの場合、同じ状況を再現できないため聞き直すこともできません

余談 「うまく伝わっている気がする」が危ない

受け渡しの内容を自由な文章にすると、読んだ限りでは自然に見えます。欠けている情報は、そこに書かれていないので目立ちません。次の節で、実際に何が落ちるかを数えます。

出典Anthropic Engineering「Building effective agents」2026-08-17 確認
In the orchestrator-workers workflow, a central LLM dynamically breaks down tasks, delegates them to worker LLMs, and synthesizes their results.
原文Anthropic Engineering「Building effective agents」 この内容の有効期限2027-02-17

よくある質問

文章で渡すと、なぜ情報が落ちるのですか?
渡す側が「必要だ」と判断したものだけ書くためです。出典のURLや調べた日時は、答えそのものではないので省かれがちです。受け取り側は、それが省かれたのか、そもそも無かったのかを区別できません。
全部の情報を渡せばよいのでは?
量が増えると費用も増えます。渡す項目を決めるということは、必要なものを選ぶということでもあります。何を渡すかを設計する作業自体は避けられません。
受け渡しの回数は減らせますか?
エージェントを分ける数を減らせば、その分だけ受け渡しも減ります。分けるかどうかの判断自体を見直す価値はあるでしょう。ただし分ける利点もあるので、受け渡しの設計で対処する方が現実的な場合が多くなります。
専用の枠組みが必要ですか?
必要ありません。受け渡す項目を決めて、決まった形式のデータで渡すだけです。Anthropicも、複雑な枠組みより単純で組み合わせやすい形が成功していると述べています。

まとめ

  • ハンドオフでは情報が欠けることが前提になる
  • 実測では文章で渡すと6項目中2項目しか届かなかった
  • 項目を決めれば6項目すべてが届き、欠けたときも検出できる
  • 設計の要点は何を渡すかを先に決めること

今日から始められること

  1. エージェント間で受け渡している情報を書き出す
  2. 受け取り側が実際に使っている項目を確認する
  3. 渡す項目を決めた形式にする
  4. 項目が空だったときに検出できるようにする

実務で組んだエージェント間ハンドオフのワークフローには、値段が付きます

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