RAG・検索基盤

RAGASとは|適合率0.600と再現率0.300、どちらを上げるか決まらない

RAGASとは何を測るのか指標が複数あるのはなぜか検索と答えのどちらを直せばよいか

渡す件数を1件から5件に増やすと、文脈適合率は0.600から0.320に下がり、文脈再現率は0.300から1.000に上がりました。逆に動きます。

さらに、同じ文脈から作られた答えでも忠実性は1.000と0.667に分かれます。検索の側の数字だけでは、直す場所が決まりません。

この記事の要点

  • 1件渡すと適合率0.600・再現率0.300
  • 5件渡すと適合率0.320・再現率1.000
  • 同じ文脈でも忠実性は1.000と0.667
  • 1つの数字では判断できない

適合率0.600と再現率0.300、どちらを上げるか決まらない

渡す件数を変えて測りました。2つの指標は逆に動くので、片方だけを見て決めることができません。

RAGASが分けて測っているものを確かめるため、実際に走らせて測りました。使ったのは社内規程を模した文書13件と、問い5件です。

渡す件数を1件・3件・5件と変えて、渡した文脈がどれだけ当たっているかと、正解をどれだけ取りこぼしていないかを別々に数えました。

javascript
for (const k of [1, 3, 5]) {
  for (const { q, rel } of QUERIES) {
    const ids = bm25(q).slice(0, k).map((x) => x.i);
    p += ids.filter((i) => rel.includes(i)).length / k;        // 当たりの割合
    r += rel.filter((i) => ids.includes(i)).length / rel.length; // 取りこぼしのなさ
  }
}
text
渡す件数  文脈適合率  文脈再現率  渡す文字数
    1件       0.600       0.300         62字
    3件       0.467       0.900        175字
    5件       0.320       1.000        238字

上の表を見てください。件数を増やすと適合率は0.600から0.320に下がり、再現率は0.300から1.000に上がります

なぜ逆に動くのか

件数を増やせば正解が入る確率は上がります。ところが外れも一緒に入ります。渡したものに占める当たりの割合はその分だけ低くなるわけです。

Ragasの説明も、この指標を関係のある塊を関係のないものより上位に並べる能力を評価するものだとしています。並べ方を見ている指標です。

1つの数字では決まらない

適合率だけを見れば1件がいちばん良く、再現率だけを見れば5件がいちばん良いです。反対の結論が出ます

だから複数の数字を並べます。どちらを重くするかは、答えを作る側がどれだけ外れに強いかで決まります

件数を増やすと、2つの数字は反対に動く。

%10001件3件5件文脈適合率文脈再現率文書13件・問い5件での実測。0.600などの値を百分率で示している。
図1 ── 渡す件数と2つの指標
出典Ragas ドキュメント「Context Precision」2026-08-18 確認
Context Precision is a metric that evaluates the retriever's ability to rank relevant chunks higher than irrelevant ones
原文Ragas ドキュメント「Context Precision」 この内容の有効期限2027-02-18

RAGASとは何を測るのか

検索を組み合わせた生成を、検索の側と答えの側に分けて数字にします。1つの総合点にはしません。

RAGASは、検索を組み合わせた生成の出来を、複数の数字に分けて測る枠組みです。

分けて測る

測る対象は大きく2つに分かれます。渡した文脈が適切だったかと、その文脈から出た答えが適切だったかです。

前の節で測ったのは前者です。答えを作る前の段階だけを見ています。

どう計算するか

Ragasの説明では、この指標は文脈に含まれる各塊についての順位ごとの適合率の平均として計算されるとされています。

つまり順位が効きます。同じ文書を渡していても、正解が上にあるほど数字は高くなります。

測る前に要るもの

  1. 実際に聞かれる問い。作った問いでは実態が出ない
  2. その問いの正解の文書。人が決めるしかない
  3. 渡した文脈の記録。あとから追えないと測れない
  4. 出した答えの記録。答えの側の指標に要る

2番目が手間です。正解を決めないと、どの指標も計算できません。まず問い5件から始めるのが現実的です。評価の組み立て方は検索評価の記事で扱っています。

余談 この計測での注意

答えの文面は私が手で置きました。生成AIが書きそうな3通りを用意して、そこから主張を取り出しています。実際のRagasは主張の取り出しも判定も生成AIに行わせるので、そこ自体に誤差が入ります。この記事で見せているのは、指標が何を見ているかという中身です。

出典Ragas ドキュメント「Context Precision」2026-08-18 確認
It is calculated as the mean of the precision@k for each chunk in the context.
原文Ragas ドキュメント「Context Precision」 この内容の有効期限2027-02-18

検索の指標が同じでも、答えの指標は分かれる

同じ文脈から作られた答えでも、忠実性は1.000と0.667に分かれました。検索の側だけ測っていると見逃します。

RAGASの答えの側の指標が何を捉えるのかを、実際に走らせて測りました。答えを主張に分け、それぞれが渡した文脈に支えられているかを数えています。

text
答え                          主張の数  支えられた数  忠実性
宿泊費の上限は1泊12000円です。超過分は自己負担        2個          2個   1.000
宿泊費の上限は1泊12000円です。超過分は自己負担        3個          2個   0.667
前払は出発の7営業日前までに申請します。上限は概算額        2個          2個   1.000

支えられなかった主張
  「部長の承認があれば例外」… 渡した文脈に出てこない

1行目と2行目は同じ問いで、同じ文脈から作られた答えです。検索の側の数字はまったく同じです。

足された一文が下げる

違いは主張が1つ多いことだけです。「部長の承認があれば例外」という一文が、渡した文脈に出てきません

Ragasの手順も、各主張について、取ってきた文脈から導けるかを確認するとしています。導けない主張が1つ入ると、忠実性は0.667に落ちます。

直す場所が決まる

この2つを分けて測っていると、直す場所が決まります。忠実性だけが低いなら、検索を触っても直りません。

  1. 再現率が低い。正解が渡っていない。検索を直す
  2. 適合率が低い。外れを渡しすぎている。件数か並べ方を直す
  3. 忠実性が低い。文脈にないことを書いている。答えの側を直す
  4. 全部を同時に触る。何が効いたか分からなくなる

4番目を避けてください。指標を分けた意味がなくなります。文脈の範囲を外れる問題はグラウンディングの記事でも扱っています。

同じ文脈でも、答えの数字は分かれる。

主張2つの答え支えられた2支えられない2個主張3つの答え213個+50%(1個)上位3件を文脈として渡した場合の実測。忠実性は1.000と0.667。
図2 ── 同じ問い・同じ文脈での忠実性
出典Ragas ドキュメント「Faithfulness」2026-08-18 確認
Check each claim to see if it can be inferred from the retrieved context.
原文Ragas ドキュメント「Faithfulness」 この内容の有効期限2027-02-18

よくある質問

どの指標を見ればよいですか
検索の側と答えの側の両方が要ります。この計測でも、検索の指標が同じ条件で忠実性だけが下がりました。
適合率と再現率はなぜ逆に動くのですか
渡す件数を増やすと正解が入る確率は上がりますが、外れも一緒に入るからです。
忠実性はどう測るのですか
答えを主張に分け、それぞれが渡した文脈から出てくるかを見ます。この計測では語の一致で判定しました。
指標が悪いとき何から直しますか
再現率が低ければ検索、忠実性が低ければ答えを作る側です。分けて測っていないと切り分けられません。

まとめ

  • 検索と生成を複数の数字で分けて測る枠組み
  • 渡す件数を増やすと適合率と再現率が逆に動く
  • 同じ文脈でも忠実性は1.000と0.667
  • 分けて測っていないと直す場所が決まらない

今日から始められること

  1. 自分の問い5件と、その正解の文書を先に決める
  2. 渡す件数を1件・3件・5件で変えて指標を測る
  3. 答えを主張に分けて、文脈に支えられているか見る
  4. 検索と答えのどちらが低いかで直す場所を決める

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